
「まめちゃん、大事なのは呼吸だよ、呼吸」。 年の離れた友人にそう言われたとき、私は思わず笑ってしまった。まるで少年漫画の修行シーンのような話だと思ったのだ。
しかし、ひどい腰痛に悩まされ続け、いよいよ耐え切れなくなって訪問リハビリを頼ったところ、意外な事実が判明。問題は腰ではなく、胸郭の硬さ、つまり呼吸の浅さにあると指摘されたのだ。振り返ってみれば、私はいつも肩に力が入り、首や肩までがちがちに固まっていた。日々の不安や焦りで、頑張らねば、と無意識のうちに防御態勢となり体を緊張させていたのだろう。
呼吸は、私たちが意識的にも無意識的にも行える唯一の生命活動であり、人間の心と体を繋ぐ重要な架け橋なのだそうだ。ゆったりと深い呼吸を繰り返すと胸郭が広がり、体の緊張がほどけていく。そして、不思議なことに心もまた、その穏やかさにつられて落ち着きを取り戻していくのだ。
心が不安でいっぱいになったとき、いらいらしてしまったり、落ち込んで自分を責めてしまったりするとき。そんなときこそ、呼吸という最も身近で確実な「お守り」の存在に気づいてほしい。力を抜いてゆっくりと息を吐ききることで、心のざわめきが静まり、乱れた感情が整理されていく。呼吸は、いつでもどこでも、あなたが本来の自分を取り戻すための、静かな入り口になってくれる。ぜひ試してみてください。
豆塚エリ
1993年、愛媛県生まれ。別府市在住の詩人・エッセイスト。16歳で自殺未遂、以後車椅子で生活。詩や短歌、短編小説などを発表し、コラム執筆やテレビ出演など幅広く活動している。2022年、書き下ろし自伝エッセイ「しにたい気持ちが消えるまで」(三栄)を出版し、ヨンデル選書大賞を受賞。2023年10月、イラストレーター・こっちゃんとのコラボによる絵本「夜空に虹を探して」を出版。