「こころの中に傷がある/人に見られないように包帯を巻いている/あるとき 傷が声を上げる 語り始める/もっと語りたい もっと聴いてもらいたい/何度も物語を紡いで 包帯は少しずつ解けていく/聴く人のこころにも 傷はある/傷は物語を聴いている/……」
これは度々講演会をさせていただいている一般社団法人いのちの電話連盟のパンフレットにある詩の一部だ。
当事者として自身の経験を語る活動をする私の、根幹にある考え方がここに現れており、とても驚いた。
私は普段、講演会で必ず「個人的なことは、社会的なこと」という言葉を紹介している。
人は傷つかずに生きてはいけない。
傷とは、私たちが人生の中で受けてきたさまざまな経験の跡であり、自分の物語を語りたくなるのは、内に秘めた痛みを共有することで癒やされ共感を得ようとするからだ。
その語りに耳を傾ける他者もまた、その物語に触れたとき、自分の中にある傷や経験を思い出し、心を動かされる。この瞬間に生まれるのが、共感と理解を軸にした人と人とのつながりだ。
さらに、個人的な経験(傷)は個人のものに留まらず、社会的な影響や文脈の中で形づくられる。
これらは多くの人々が感じている共通の痛みであり、それゆえ「社会的な問題」としても捉えることができる。
傷を語ること、物語を共有することには、社会を映し出し、社会をより良いものにする力があるのだ。
傷を通じて繋がる私たちの思いが、やがては社会そのものをより温かく、包容力あるものへと導いていく。
豆塚エリ
1993年、愛媛県生まれ。別府市在住の詩人・エッセイスト。16歳で自殺未遂、以後車椅子で生活。詩や短歌、短編小説などを発表し、コラム執筆やテレビ出演など幅広く活動している。2022年、書き下ろし自伝エッセイ「しにたい気持ちが消えるまで」(三栄)を出版し、ヨンデル選書大賞を受賞。2023年10月、イラストレーター・こっちゃんとのコラボによる絵本「夜空に虹を探して」を出版。