2025.06.11 居場所は、まだ見つからなくてもいい

新年度が始まってひと月ほど経つころ、なんとなく息苦しさを覚える人は少なくない。いわゆる「五月病」や適応障害と呼ばれるものだけれど、新しい環境に馴染もうと必死にがんばるうち、いつの間にか息をつめてしまって、ちゃんと呼吸できていない自分に気づくことがある。

私自身、「ここでやっていかなきゃ」と自分を追い込み、なんとか周囲の期待に応えようとした結果、笑顔も言葉も借りもののように感じていた頃がある。好きも嫌いもわからなくなって、気がつけばなんのために生きているのかもわからなくなってしまった。

そんな過去の私を救うために、NPO法人こんぺいとう企画から5月1日にメディアサイト「Arica(アリカ)」を立ち上げた。ここは、生きづらさを抱える人たちが体験や気づきを共有し合い、心がほどける瞬間を持ち寄る場所だ。

そして私は強く思う。「あなたがここにいること」自体に、ちゃんと意味がある。

私たちは日頃、目に見える成果や「誰かの役に立つこと」を価値だと捉えがちだ。でも実際は、あなたがただそこにいるだけで、周りの空気が柔らかくなることがある。言葉にならない安心感や、ほんの少しの温かさを周囲に灯しているのだ。 だから居場所は、「がんばって作る」ものというより、「ある日ふと出会う」ものかもしれない。

もし今は見つからなくても焦らないでほしい。深く息を吸い込んで、自分が今、感じている気持ちはなんなのか、思いを馳せる。自分のペースを大切にしていれば、きっとその場所と巡り合えるはず。

豆塚エリ
1993年、愛媛県生まれ。別府市在住の詩人・エッセイスト。16歳で自殺未遂、以後車椅子で生活。詩や短歌、短編小説などを発表し、コラム執筆やテレビ出演など幅広く活動している。2022年、書き下ろし自伝エッセイ「しにたい気持ちが消えるまで」(三栄)を出版し、ヨンデル選書大賞を受賞。2023年10月、イラストレーター・こっちゃんとのコラボによる絵本「夜空に虹を探して」を出版。