
プレゼンやメディア出演といった「決められた短い時間内に人前で喋る」ことが、この頃の私には負担になっているらしい。
人から褒められることが多く嫌いではないのだが、ストレスなようで寝つきが悪くなり、悪夢を見、すぐ目が覚めるようになった。
別件でかかりつけの病院を訪れたついでに、おずおずと医師に相談してみた。
医師は私の話を聞きながら、「僕も同じだよ。人前で話すのって緊張するよね」と笑い、軽い睡眠導入剤を処方してくれた。
その何気ない言葉にほっとした。
しかし、帰宅してベッドに入る直前、薬を前にしばらくためらった。
副作用には「悪夢」や「金縛り」、「翌日の眠気・倦怠感」とあった。
それらへの不安もあったが、それ以上に「薬に頼るのは弱さだ、甘えだ」という自己否定が頭をもたげた。
頼りない自分自身に嫌気が差し、何かに頼ることを許してくれない社会ではなく、自分自身が一番許せないのかもしれない、とぼんやり考えた。
知人が言ってくれた言葉をふと思い出した。
「薬への抵抗感はわかるけど、眠れないまま日常生活を送っているほうが、事故や仕事のミスにつながってよっぽど危ないよ」。
大変合理的な言葉に励まされ薬を飲んでみると、意外なほど何でもなく、気がつけばぐっすり眠っていた。
眠れた翌朝、「弱さを認め、頼ること、それを自分が許すこと」は決して悪いことではないと実感した。
むしろ、自分が気付いていなかっただけで、すでに弱いままでいることが許される社会なのかもしれない。
豆塚エリ
1993年、愛媛県生まれ。別府市在住の詩人・エッセイスト。16歳で自殺未遂、以後車椅子で生活。詩や短歌、短編小説などを発表し、コラム執筆やテレビ出演など幅広く活動している。2022年、書き下ろし自伝エッセイ「しにたい気持ちが消えるまで」(三栄)を出版し、ヨンデル選書大賞を受賞。2023年10月、イラストレーター・こっちゃんとのコラボによる絵本「夜空に虹を探して」を出版。